陳茂波(Paul Chan)財政長官が2021年2月23日、2022-23年度の財政予算案を発表した。目玉は18歳以上を対象に1万香港ドルの電子マネーの給付で昨年度の倍となる。オミクロン株の抑え込みに失敗しただけに、財政予算案を通じて経済活動を回そうとする香港政府だが、ゼロコロナ政策の継続を打ち出すなど複雑な要因が絡んでおり、新年度の香港経済はどのようになっていくのかは見通せない状況だ。
歳入は、所得税や土地収入などから合計7,159億香港ドルに加え351億香港ドル分のグリーンボンド合わせ、総額で7,510億香港ドルとなる。前年度の6,262億香港ドルから約1,300億香港ドル増えた。一方、支出は8,073億香港ドルとなることから、今年度は563億香港ドルの赤字だった。ただし歳入が大幅に増えたこともあり前年度の1,016億香港ドルの赤字からは減少した。財政備蓄は2018-19年度に過去最高の1兆1,700億香港ドルあったが、ここ数年は新型コロナウイルス関連予算のため支出が増加し2022年3月31日で9,467億香港ドルを見込んでいる。中長期的には今後も年平均1,000億香港ドルの支出超過を見込む一方で、2023-24年度から2026-27年度まで経済成長率は平均で約3%と見積もっており、2027年3月末には1兆646億香港ドルと、再び1兆香港ドルを回復すると見込んでいる。
2021年の経済成長率は同年5月から12月末まで新型コロナウイルスを抑え込んだこともあり前年のマイナス6.1%から一転6.4%と大きな成長を実現した。2022年第1四半期はオミクロン株の影響で楽観できないが、それ以降、感染拡大が落ち着けば下半期の経済は好調になるだろうとし2~3.5%の成長になるだろうと予測する。
歳出を分野別に見ると、衛生が1,628億香港ドル(シェア20.2%)、社会福利が1,200億香港ドル(同14.9%)、教育が1,119億香港ドル(同13.8%)で、不動の御三家で全体予算の48.9%を占めた。特に衛生に関しては、前年度は959億香港ドルと3番目の支出だったが、今回はトップに躍り出ている。その要因として新型コロナウイルスとの闘いが3年目に入り、医療体制にも負荷がかかっているため。例えば、220億香港ドルを割いて医院管理局(HA)を支援し、PCR検査などの検査能力を高めるほか、隔離などの防疫施設の建設に120億香港ドル、60億香港ドルにワクチンの購入に充てる。
そのほか、経済が1,067億香港ドル、インフラ整備が851億香港ドル、環境・食物が391億香港ドル、保安に659億香港ドル、住宅77億香港ドルなど。
個人を対象に見ると、18歳以上の永久居民に対して1万香港ドルの電子マネーを支給するとした。2020年度は1万香港ドルの現金、2021年度は5,000香港ドルの電子マネーだった。これで3年連続の給付金支給となったほか、今年度の電子マネーは前年度の倍額になる。今年4月に5,000香港ドルを支給し、残り5,000香港ドルは今年半ばを目途に行う考えで、約660万人が恩恵を受けるとしている。所得税は、前年同様に上限を1万ドルとして予定納税額の100%を減免する。香港政府に支払う土地のレーツについては上半期が上限を1,500香港ドル、下半期は上限を1,000香港ドルで免除される。住宅用の電気代は1戸当たり1,000香港ドルの補助金が付く。公共交通機関について月額200香港ドル以上の利用者を対象に、1カ月当たり500香港ドルを上限として補助する(5~10月の半年間)。また、2022-23年度から住宅資産を持たない人を対象に10万香港ドルを上限として給与または個人所得から控除できるようにしたい考えで、本年度第2四半期に立法会に諮る予定だ。2023年に開催される進学テスト「香港中學文憑考試(HKDSE)」の受験料を前年度に引き続き無料にする。
法人では、事業所得税は、上限が個人所得税と同じく1万ドルを上限に100% 免除する。商業登記費(Business Registration)の登記料を免除するほか、レーツは上半期が上限を5,000香港ドル、下半期は上限を2,000香港ドルで免除する。住宅用途以外で使われているオフィス、工場などの水道代は2万香港ドル、下水道第は1万2,500香港ドルを上限に8カ月間75%を補助する。
文化芸術では「香港演藝博覧会(Hong Kong Performing Arts Market)」の開催費用に4,200万香港ドル、観光業界に関しては12億6,000万香港ドルを投じて、あらゆる振興策を講じる。その中には6億香港ドルを投入して古い香港を再認識してもらう計画「文化古蹟本地遊鼓勵計画(Cultural and Heritage Sites Local Tour Incentive Scheme)」を推進する。
環境に優しい都市を目指すため、電気自動車(EV)用の充電ステーション設置について15億香港ドルを計上した。温暖化による気候変動で大型台風の襲来や大雨が降る確率が増加していることから84億香港ドルを費やして、雨水用の暗きょ、開きょといった水路を改修し、洪水に強い都市を目指す。
住宅では、今後5年以内に103ヘクタールの土地を民間用に売却して5万7000戸分のマンションを建設する。同じく5年以内に毎年平均で1万9000戸のマンションが落成する予定だ。公営住宅では350ヘクタールの土地に33万戸分を建設し、次の10年の需要を満たすようにする。今年は4200戸、来年は1万1000戸分の住宅が完成するとしている。