香港を代表する観光のアイコンの一つ「ピークトラム」の第6世代が8月27日、デビューした。2018年以降、2回の運休を経て、昨年6月末から乗車できなくなっていた。1800年代の創業時から同じ軌道をたどりながらも、今回のプロジェクトでは、新型トラム車両、全ての運行・制御・信号システムの交換、新しいロープと軌道レールに取り換える作業を行った。併せて起点終点の駅を改修し、総額7億9,900万香港ドルをかけた大規模なアップグレードとなった。
新しいピークトラムのカラーには、20世紀初頭に使用されていたピークトラムの伝統を受け継ぐクラシックな「ピークトラム・グリーン」を採用。第5世代と比較すると、色は赤から深緑に変わり、全体の長さも18.7メートルから33.85メートルと大幅に伸びた。窓の大きさも3割大きくなった。床は波打つ設計で、ストッパーのように角度がある中でも立って乗車する人にも配慮している。
乗客定員は75%増となる210人で、これまでの窓側、車体の後部や窓側から見えていた景色が、最大25.7度ある斜面では天井からも見えるようになり、よりダイナミックな画角で高層ビル群を一望することができる。
中央駅では、屋根付きで温度調節が可能な到着・待合室を拡張し、最大1300人を収容できるようにした。これにより、常態化していた混雑を7割減らすことができるようになると試算する。中環の花園道(ガーデンロード)にある中央駅には、「歩みを進めるごとにコンテンツが変化する」アトラクション的なスポットを導入し、1888年の運行開始当時にタイムスリップできるような工夫を施した。開業当時から洪水や台風などの災害やその後戦火をくぐり抜け今日まで存在するトラムの歴史を、過去に使っていた蒸気ギア、グラインドなどを展示しながら紹介するコーナーも設ける。
アジア初のケーブル鉄道としてスタートしたトラムは、もともと椅子かごが輸送手段だった時代、ピークにあった30~40世帯ほどの富裕層と上流階級の紳士を常連客として運ぶ手段としてスタート。山間部の住宅地開発を加速するために導入されたトラムは、セントラルのマレー兵舎とヴィクトリア峡をつなぐため、1888年5月30日、全長1350メートル、途中駅5つを備えたケーブル鉄道として運行を始めた。
初代ピークトラムのレプリカの展示では、最初の車両がニス塗装を施しただけの木製で、車両の前後に数列のベンチ式座席と中央に小部屋が設けられている簡単な造りだったことが分かる。石炭燃料のボイラー駆動のトラムは、運行初日の乗客は600人、初年は15万人の利用があったという。
1926年、ピークトラムはスチームボイラーの電動式になった。1941年12月11日、日本軍の九龍半島占領の後にピークトラムのエンジン室が砲撃により破壊されたとされ、1945年のクリスマスに運行を再開した歴史がある。
その後72席の全軽量金属性の車両を1959年に導入し、現在の全自動運転の前身となった。1989年、マイクロプロセッサ制御の電力駆動システムを取り入れ、現在のピークトラムが登場した。迫力ある大自然を描いたビデオウオールも設け、そこを抜けてドアが開くと動く歩道でトラムの乗車位置まで移動できる。動く歩道も含め、入り口からトラムに乗車するまでは段差もないバリアフリー対応になっている。
併せて、中央駅ではオーストラリア人アーティスト、リンディ・リー(Lindy Lee)の彫刻作品「アイ・オブ・インフィニティ」も公開。香港の「上昇志向」にインスパイアされた彫刻作品だといい、彫刻作品やトーラスは卵形で、トーラスの形が細長くなり中央に空洞を持つ楕円(だえん)形が特徴。鋳造されたブロンズにブラックパティナ仕上げを施し、何千もの小さな開口部から光が差し込むような設計になっている。ピークトラムの中央駅への到着が近づくにつれ、照明の強さが増して合図を送る意図で製作された。
チケットは、片道=62香港ドル、往復=88香港ドル。10月30日までは割引価格も設定。ウェブサイトで事前に購入することも可能になった。運行時間は7時~22時。