李家超(John Lee)行政長官は10 月26日、就任後2度目となる施政方針演説を行った。
新型コロナウイルスの影響で経済的に大きなダメージを受けた香港経済について、アフターコロナ後の経済は伸びてはいるものの、ウクライナ情勢などを含めた経済構造の変化により思うように回復していない。そこで幅広い分野で経済対策を実施し早期の経済回復を目指す。加えて、2024年末までに国家安全条例の制定を目指すとした。
政治面では、2022年の施政方針演説では基本法23条に基づく国家安全条例の制定を目指すとしていたが、今年は一歩踏み込み、2024年末までに法律を制定することを打ち出した。既に香港国家安全維持法があるが、同法ではカバーしきれない部分を国家安全条例で補う。国家安全条例は2003年に50万人規模のデモが行われたことで、法制化が事実上棚上げされていた。
愛国教育の一環で、中華文化専門の組織「弘揚中華文化弁公室(Chinese Culture Promotion Office)」を立ち上げる。「香港海防博物館(Hong Kong Museum of Coastal Defence)」の名称を「香港抗戦及海防博物館(Hong Kong Museum of the War of Resistance and Coastal Defence)」に変更する。海防博物館は元々、日本軍との戦いについての展示物は少なくなかったが、より重点を置いたものになる可能性が高い。中国における、歴史、政治、文化、経済の発展を展示する統括的な博物館も建設する。一方、香港独自のカルチャーを紹介する施設「流行文化館(Pop Culture Centre)」も作る。香港北東部にある沙頭角(Sha Tau Kok)は深センとのボーダーと接続していることから、住民など許可を得た人しか入れないが、2024年1月から1日1000人の観光客を受け入れる。半年後に1000という数字が適切かどうかの見直し作業も行う予定だが、これまで普通には入れなかったところにアクセスできるようにすることで観光客を引き付けたい考え。
経済面では、主要産業である観光について来港者数は2018年の7割まで回復したほか、第2四半期の個人消費は前年同期比8.2%増など経済回復しつつあるとした。しかし、少子高齢化による労働力不足は懸念材料としているほか、ウクライナ情勢などで世界経済に力強さはないうえ、アメリカなどが利上げをしたため、香港の投資環境は悪影響を受けているとした。
そのため、外国企業による融資が減少したり、香港にあった外資系企業が香港を離れたりする事例があることから「大型発展項目融資委員会(Committee on the Financing of Major Development Projects)」「大型発展項目融資弁公室(Office for the Financing of Major Development Projects)」を設立し、特に大型案件の投資を呼び込み、それについて融資を受けやすい環境を整える。香港は、1国2制度を生かし、香港という一つの経済体として「地域的な包括的経済連携(RCEP)」への加入を目指すほか、アセアン諸国と中東でのビジネスに力を入れ、世界とのつながりを維持する努力を行う。
株取引で見ると、印紙税を11月末までに、これまでの0.13%から0.1%に引き下げる。自動車免許に代表されるように、政府が発行する各種ライセンスの中で、香港政府は、まず免許を先に発行し、具体的な審査は後から行うというスキームを始めていたが、2024年は上半期中に飲食業に拡大させる。コロナ禍で倒産したレストランも多いことから、飲食業の活性化を狙う。住宅では今後10年間で41万戸の公営住宅の建設を進めるとした。
現在、旧啓徳空港(Kai Tak Airport)の跡地に大規模なスタジアム「啓徳体育園(Kai Tak Sports Park)」を建設中だが、さらにスポーツ振興にも力を入れ、火炭(Fo Tan)にある香港体育学院(Hong Kong Sports Institute)の施設増強を行う計画だ。
日本同様に少子高齢化に悩む香港だが、新生児1人につき2万ドルの現金を支給するほか、子どものいる家庭の控除額の上限を12万ドルまでに引き上げ、出生率の向上につなげたい考え。高齢者が増えたこともあり、ここ数年、公立病院では、耳鼻咽喉科と整形外科の待ち時間が長くなっている。2024-25年度には現在よりも10%ほど待ち時間を短くする。そのため、政府が開発した医療用アプリ「醫健通(eHealth)」を進化させ、アプリを通じての予約をよりしやすくしたりする。