香港中環で西洋人、外国育ちの香港人を中心に愛されてきた日本料理店「寿司 喰」(Basement, 29-31 Gough Street, Kau U Fong, Central & Western District, Hong Kong TEL 2971 0180)が3月4日、上環の閑静な住宅街でもある歌賦街に移転オープンした。
同店が香港の日本料理界でその名を知られてきたのは、香港に26年在住し、2007年から「寿司喰」を率いる大将・向川哲さんの存在。料理の味に加え、「楽しさ」「解放感」などを求めて「哲さんに会いたい」と通う常連も多い。
向川さんは高校卒業後、アメリカに渡り、学生時代を過ごしながら飲食業界に入った。香港でのキャリアは日本料理の先駆者的存在だった「西村」に就職したこと。西村は中国を含むアジア都市でレストランを経営していたことから、大連、上海、カンボジア、フィリピンなど数多くの国での経験を積み、現地人との関わり方を肌で覚えてきた。
かつて香港の夜が最もにぎわっていた中環地区の蘭桂坊 (ランカイフォン)にあった店舗は、20人が座ることができるカウンターを中心に全部で150席を配置し、カウンターをステージに見立て、どの席からでも店の中心を見渡すことができるような設計になっていた。2019年以降、コロナ禍を経て、かつてのように毎日150席全てが客で埋まるような景色は戻って来なかった。向川さんは「店を少し小さくしても毎日満席で盛り上がる店でありたかった」と移転の理由を話す。
「ラーメンなどもう少しカジュアルな違う業態にも挑戦してみようと思ったが、やはりこの『寿司喰』としてもう少しやってみようという気持ちになった」と、移転に当たっての決意を話す。黒や茶を基調とした落ち着いた以前の雰囲気を踏襲するため、入り口の格子なども新店舗に移し、椅子なども中環で使っていたものを持ち込んだ。こだわりのカウンターも12人が座れるL字型のカウンターを用意。ネタケースがなくなった分、客との距離はより近くなったという。ほかにもテーブル席や10人程度を収容できる個室なども用意し、プライベートパーティーなどでの貸し切りも「より、しやすくなった」という。
料理は基本的に「おまかせ」のコース料理(1,500香港ドル)。中環ではコースに肉料理なども含めた一品料理を多く組み込んでいたが、新店舗ではつまみなども増やし、刺し身とすしの比重を高め、焼き魚などは組み合わせて、より「江戸前を意識した」コースメニューにする。トロも看板ながら、「光り物などにもっと力を入れていきたい」という。
客のリクエストに応じて、「炙(あぶ)りサーモンレタス巻き」「カレー」のような向川さんのスペシャルメニューも提供する。バーナーの火で炙ったり、岩塩を頭の位置で勢いよく削るパフォーマンスを披露したりするほか、最近では金粉も用意してカウンターを盛り上げる「驚き」も顕在。
ランチは、刺し身定食(レギュラー=260香港ドル、デラックス=460香港ドル)、すし定食(同=250香港ドル、同=390香港ドル)、バラチラシ定食(同=250香港ドル、同=440香港ドル)などのほか、和牛丼(310香港ドル)、カツカレー(220香港ドル)なども用意する。
「この店のサイズに合ったやり方があるはず。小さくなった分、やりたいことを時代に合わせて追求していきたい」と決意を新たにする。
営業時間は、ランチ=12時~15時、ディナー=18時~23時。