香港のフラッグシップ・キャリア「国泰航空」(Cathay Pacific Airways)が6月9日、総額390億香港ドルの資金調達計画を発表した。2019年6月に始まった逃亡犯条例改正案による抗議運動と新型コロナウイルスの影響で深刻な経営難に陥っており、香港政府から救済を受けることになった。
キャセイが3月に発表した2019年1月~12月の決算では総売上高は前年比3.7%減の106億9,730万香港ドル、純利益は同27.9%減の16億9,100万香港ドルと減収減益だった。今年2月以降は毎月25億~30億香港ドルの現金が流出しており、輸送能力はわずか3%にまで縮小を余儀なくされ、旅客収入は通常のたった1%にまで大きく落ち込んでいた。香港という小さい街であるため、香港内を結ぶ航空路線はあり得ず、航空便は海外へのフライトというのが基本という収益構造だ。新型肺炎は欧米では落ち着き始めているがブラジルを中心とした中南米で感染拡大が起こるなど全体で見れば依然として厳しい局面が続いている。
香港の航空業界において、乗客数全体の57%、貨物は41%をキャセイが占めており、フリーポートでもある香港のフラッグシップ・キャリアが無くなることは、香港経済への悪影響のみならず、国際的にも良くない印象を与えてしまうため、香港政府としてはキャセイを倒産させるという選択肢はなかった。
キャセイは、陳茂波(Paul Chan)財政長官管理下の企業「Aviation 2020」に優先株195億香港ドルを割り当てる。そしてこの企業から78億香港ドルのつなぎ融資を受ける形で経営を支えてもらう。既存の株主である太古(Swire Pacific)、中国国際航空(Air China)、カタール航空に株主割当増資の1種であるライツイシューを通じて117億香港ドルを調達し、ワラント19億5,000万香港ドルも香港政府に発行する計画だ。
これらの資本の再編により、株主比率はスワイヤが45%から42.26%に、エアチャイナは29.99%から28.17%へ、カタール航空が9.99%から9.38%にそれぞれ減少する。香港政府傘下のAviation 2020は6.08%と4番目の大株主となる。
キャセイはすでに役員報酬の削減と機材発注の延期を行っているが、この資金調達発表と併せて、さらなる役員報酬の削減と2回目の従業員の特別休暇制度も明らかにした。当面の間の事業継続が可能となったが、便数がいつになればこれまでの水準に戻るのかは不透明であるためパトリック・ヒーリー(Patrick Healy)チェアマンは記者会見で、「急速に変化している業界環境と照らし合わせて、ビジネスモデルを全面的に再評価する必要がある」と語る。陳財政長官も「香港が世界の航空のハブとしての地位を維持と安定させるためのもの」と強調した。