香港で鉄道や地下鉄を運営する香港鉄路(MTRC)は6月から運賃を3.3%値上げする予定だが、それに伴う優遇措置期間を6カ月間と想定していた計画を40週に延長することが、4月25日に開催された立法会交通事務委員会で明らかになった。
MTRの2018年の利益を見ると112億6,300万香港ドルと莫大な黒字を計上しているほか、ここ数年間は継続して大きな利益を出しているにもかかわらず料金を値上げしてきた。この優遇措置のため2億2,500万香港ドル分を予算に計上しているが、前述のように約113億もの利益を出しているため優遇措置はMTRにとって大きな痛手とはならない。一方、3月18日に新信号システムのテストで車両事故が発生したことを筆頭に、過去1、2年の間でも大きな運行トラブルが何度か発生し、多くの香港市民が足止めと受けることがあったため、世論の不満の高まりを抑える判断が働いたこと、MTRの主要株主である香港政府も財政的に余裕があることもあり、MTRが政府と話し合った結果、期間延長を判断した。
MTRは値上げ頻発するきっかけとなった発端は、地下鉄を運営していた地下鉄路(Mass Transit Railway Corporation / MTRC)と九龍と広州を結んでいた九廣鉄路(Kowloon-Canton Railway /KCR)が2007年に合併したことに始まる。それ以前は値上げをすることはまれだったが、この合併時に「可加可減機制(Fare Adjustment Mechanism)」というシステムを導入。実際の値上げは2010年の2.05%から始まった。以後、2011年=2.2%、2012年=5.4%、2013年=2.7%、2014年=3.6%、2015年=4.3%、2016年=2.65%、2017は凍結した。しかし2018年に2017年の凍結したものを含めて3.14%値上げし、2019年=3.3%と、ほぼ毎年値上げを繰り返してきた。今回の値上げで、旺角(Mong Kok)-金鐘(Admiralty)間は12.3香港ドルから12.7香港ドルに上昇する。
仮に2009年の初乗り運賃を1香港ドルとした場合2019年は約1.33ドルになる。数字的には10年間でわずか30セントだが、割合としては約33%も値段が上がった計算になる。現実としてはMTRに乗った場合、1ドルではなく5ドル、10ドルといった料金を払っており、そう考えると香港市民の負担が3割増加したことは非常に大きい。
他の鉄道会社の料金改定を2000年以降で見ると、ロンドンは2001年、2003年~2007年、2011年~2016年とMTR同様にほぼ毎年料金を改定。ただし、2005年は料金引き下げ、2012年は大きく引き上げたため、同じ年に少しだけ料金を引き下げた。2017年~2020年は料金を凍結することが明らかになっている。ニューヨークは2003年、2009年、2013年、2015年の4回だ。日本のJRの値上げはまれで、2000年以降では2014年の1回だけ。先頃終了した平成の時代で見ても、バブル経済が崩壊してデフレ時代に突入したとはいえ1989年、1996年(JR東日本、西日本、東海は値上げせず)、1997年、2014年と3回または4回の値上げのみとなっている。
優遇措置は、電子マネーの八達通(Octopus)を使った場合、機場快速(Airport Express)などを除き料金の3%を還元するほか、残りの0.3%分は2021-22年度から2年間(1年あたり0.15%)で徴収するとしており、2020年の4月まで値上げはストップされる形となった。ほかにも早朝割引、定期券価格は据え置きなどを想定している。可加可減機制という計算方式は、運輸業界における賃金の伸び、インフレ率などを加味して計算されるため、値下げが起きにくい計算方法になっており、2020年も再び料金の改定について香港市民の間で、さまざまな意見が飛び交いそうだ。