中国の学術機関である中国工程院は8月5日、香港と広州を時速650キロで運行するリニアモーターカーの構想を提唱した。構想は、中国政府肝いりのプロジェクトである香港、広東省、マカオなどの粤港澳大湾区(Greater Bay Area)で、物流の世界的ハブである香港を活用し、増加する輸送をスムーズにすることで大湾区の能力向上を狙うもの。
大湾区は、香港、マカオに加え広東省の広州、深●、東莞、恵州、仏山、江門、中山、珠海、肇慶の9都市を対象とし、面積は5万6000平方メートル、人口は6800万人、GDPが1兆3,600億ドルという巨大経済圏を形成する。
その中核を担う都市は香港と広州だが、両都市を結ぶ路線は、紅?(Hung Hom)と広州東駅を結ぶ「港鐵城際直通車(MTR Intercity Through Train)」が存在していた。しかし、コロナ禍で運行が停止し、2022年になると事実上の廃線が決まった。一方、2018年には西九龍駅(West Kowloon Station)から広州南駅までは約50分で結ぶ高速鉄道が開通し、停止した城際直通車をカバーしていた。
大湾区の輸送密度は2017年の時点で1億963万人だが2035年には2億6000万人まで増えると予想されているものの、輸送能力そのものは4000万人分が不足すると試算されている。しかし、リニアが開通すれば、時速650キロ、約20分間で両都市を結ぶといわれており、輸送能力の不足分をスピードと輸送回転数を上げることでカバーしようという思惑もある。
中国では2003年1月、上海で上海浦東空港と地下鉄の龍陽路駅を結ぶリニアモーターカーの運用を始めた。最高時速431キロで、29.8キロの距離をおよそ7分20秒で結ぶ。開通から20年が経過しているが、中国で広がりを見せないのは採算性などの問題が要因の一つとなっている。
リニアの建設費には1キロ当たり2億5,000万元(約2.7億香港ドル)~3億元(2.8億香港ドル)が必要と試算されていたが、香港と深●を結ぶ26キロの高速鉄道の部分の工事費は、最終的に884億香港ドルと1キロ当たり34億香港ドルという多額の費用がかかってしまった。それに加え、高速鉄道開通後も1日平均の利用者が8万人で、想定の6割にとどまっている。つまり、香港~広州間にリニアが開通しても、採算が取れる保証がないのが実情だ。
今回、提唱された路線は「廣州東~東莞莞城~深●香蜜湖」「廣州東~東莞虎門~深●前海」「珠江新城~廣州南沙~深●前海」「廣州站~廣州南沙~深●前海」の4路線で、いずれの案も深●側の終着駅から香港の九龍側にリニアの鉄道網を発展させる計画となっている。
採算性に懸念はあるものの、リニアの建設計画は香港としては経済的には渡りに船となる。低下しつつあった物流のハブとしての地位が再び向上する可能性が低くない。高速鉄道では広州南駅下車しても広州市街に向かう列車に乗り換えなければならず、さらに30分ほどかかるため、実際の移動には80分ほどが必要だった。リニアであれば、両都市間を30分以内で結び、日帰り出張を含め、ハードルが低減されることにより人の往来が増えることが見込まれる。
●=土へんに川