2023年の十大ニュースは、新型コロナウイルスの防疫対策が完全に終了し、アフターコロナの時代を迎えた中でさまざまな出来事があった。その中でも最も大きなインパクトがあったのは、東京電力福島第一原子力発電所に関連する多核種除去設備(ALPS)処理水が海洋放出により10都県の水産物が輸入禁止になったことである。9月の集中豪雨では、黄大仙駅(Wong Tai Sing Station)が水没するなど香港全体が大きな被害を受けた。明るい話題では日本企業の進出が続き、香港ディズニーランドではアナ雪のエリアがオープンするなど、ポジティブなニュースもあった香港の1年を振り返る。
(1)10都県の水産物が輸入禁止 (2023年7月14日付、8月24日付)
福島第一原発のアルプス処理水の放出により、香港政府は東京、福島など10都県からの水産物の輸入禁止を開始した。中国本土では全都道府県が禁輸となっており、そういう意味で1国2制度が機能した形となった。一部の企業は経営的なダメージを負ったが、香港人の日本への好イメージ、科学的根拠の情報発信などが功を奏し、香港においては想定よりも経済的な影響が少なかったのは幸いだった。
(2)アフターコロナの時代到来 (2023年2月8日付など)
香港政府は2023年に入った直後から新型コロナの防疫対策について緩和策を次々と行い始めた。2月8日にはワクチン接種なしでも渡航が可能になり、3月1日にはマスク着業義務も撤廃するなど事実上、コロナ対策は終了した。11月7日には中国との往来で必要だった健康申告が撤廃され、完全にアフターコロナの時代に突入した。
(3)線状降水帯による集中豪雨で黄大仙駅が水没 (2023年9月11日付)
9月7日から8日にかけて集中豪雨が発生し、香港を水浸しにした。台風11号(ハイクイ)は熱帯低気圧に変わったものの線状降水帯のような形で大雨をもたらした。23時から0時までの1時間降水量は158.1ミリに達するなど、香港天文台は最高レベルの「黒色」暴雨警報が発令する事態に陥った。香港各地で冠水したほか、MTR黄大仙駅は完全に水没した。幸い、ホームドアのおかげで線路まで浸水しなかったため運行は同駅を飛ばす形で継続された。
(4)はま寿司、ニトリが香港進出 (2023年7月5日、9月22日付など)
すき家を運営するゼンショーホールディングスは6月29日、回転ずし「はま寿司」の1号店を佐敦(Jordan)にオープンした。また、家具最大手のニトリも香港1号店を九龍湾(Kowloon Bay)にあるMegaBoxに9月22日、開店した。ほかにも、抹茶スイーツの「nana’s green tea」、みそ煮込うどん専門店「山本屋本店」、ゲームの「タイトーステーション」も開業するなど、飲食業や小売業にとって、依然として魅力的な市場であることが証明された。
(5)香港人、買い物と食事のために「北上」 (2023年秋頃)
新型コロナ前までは中国本土の人が香港に大挙して来港していたが、コロナ禍が明けてからは、香港人が深センを中心に「北上」するようになった。10月21日~23日の重陽節の3連休で香港を出境した人は約111万人に対し、中国から香港に入境した人は約25万人にとどまった。クリスマス連休となった23日~26日に香港を出境した市民は約156万5000人になったがこのうち9割は中国本土を訪れたとみられる。この現象は、香港ドルと人民元の価値が逆転する前に似ている。理由は、中国本土の物価安で、同じものを食事する場合、香港よりも深センの方が3、4割安いことが理由と見られる。
(6)世界初の「アナ雪のゾーン」が香港ディズニーランドにオープン(2023年5月11日付など)
香港ディズニーランドに11月20日、映画「アナと雪の女王」をテーマとした新エリア「魔雪奇縁世界(World of Frozens)」がオープンした。映画の舞台となったアレンデール王国を再現し、2つの乗り物、1つのショーが楽しめる。アメリカ本国からディズニーのトップ、ボブ・アイガーCEOも来港するなど、赤字基調の香港ディズニーをてこ入れしようとする本気度が感じられた。日本からの観光客が減少する中、オープンに合わせて観光客も来港し、ディズニーは強いコンテンツとして日本に対しても影響があることも証明されている。
(7)香港の大型ショッピングモールの開店が続々 (2022年8月3日、9月28日付など)
大圍(Tai Wai)駅南側に駅に接続する大型のショッピングモール「圍方(The Wai)」が7月22日に開業した。旧啓徳空港(Kai Tak Airport)の北部で建設を進めてきた商業施設とオフィスの複合施設「AIR SIDE」が9月28日に開業。さらに、黄竹坑駅のすぐ南にも「THE SOUTHSIDE」が12月12日にソフトオープンとなるなど、大型ショッピングモールの開業ラッシュの1年だった。
(8)レスリー・チャン、没後20年を記念して各地で追悼イベント (2023年3月27日付など)
香港が生んだ歌手・俳優の張国栄(レスリー・チャン)が2003年4月1日に亡くなったが、没後20年を記念したイベントが香港各地で開かれた。香港文化博物館(Hong Kong Heritage Museum)は「繼續寵愛・張國榮紀念展(Miss You Much Leslie Exhibition)」を開催。奥海城(Olympian City)では、友人からの提供されたものを多く展示した「Timeless Leslie Encounter與永恆傳奇的相遇」が開催された。香港駅(Hong Kong Station)ではイベント「?在我心張國榮20年創作展(Reminiscing Leslie Cheung: 20th Anniversary Exhibition)」も開催され、根強い人気があること、レスリーへの記憶はまだ消えていないことが証明された。
(9)区議会選挙、投票率は27.5%で過去最低 (2023年12月10日付)
香港で区議会選挙が12月10日に行われた。事実上、親中派の人物のみが立候補できることから香港市民は関心を示さず、投票率は27.5%と過去最低を記録した。事実上の信任選挙になったため、低投票率は選挙の正当性に関わることもあり、香港政府は大々的に選挙に関する宣伝を行ったが実らなかったといえる。
(10)映画「毒舌大状」の興行収入が過去最高を記録 (2023年2月21日)
映画「毒舌大状(A Guilty Conscience/毒舌弁護人~正義への戦い~)」が香港映画史上、過去最高の興行収入を記録した。旧正月映画として1月21日に公開されたが、わずか32日間で1億香港ドルを突破。日本でも10月20日に公開された。法廷映画だが、シリアスだけでなく、香港社会を面白おかしく風刺したことが要因と見られる。
ランクインはしていないものの、インフルエンサーの蔡天鳳(Abby Choi)さんのバラバラ殺人事件、被害総額は14億香港ドルという香港最大の詐欺事件となった仮装通貨プラットホーム「JPEX」問題、オランダの芸術家Florentijn Hofman(フロレンタイン・ホフマン)さんが制作した黄色いのアヒル「ラバーダック」が10年ぶりに再来港といったニュースもあるなど各種ニュースでにぎわったこの1年。香港から日本への訪日客はコロナ前の水準に戻ったものの、中国本土はもちろん、韓国やタイなども以前の来港客数に向けて順調に回復傾向にあるものの、日本から香港への来港は大きく減少し、国別で10位以下となってしまった。2024年も香港への関心を寄せてもらうために発信を続けていきたい。