イタリア盛期ルネサンス、ベネチア派の巨匠ティツィアーノを中心とした特別展「ティツィアーノとヴェネチアン・ルネサンス（Titian and the Venetian Renaissance from the Uffizi）」が現在、香港藝術館2階「The Special Gallery」で開催されている。イタリアのウフィツィ美術館所蔵のコレクションを展示するもので、ティツィアーノと同時代のベネチア派の巨匠たちの作品に触れることができる同展。全ての作品は香港初公開、アジアや海外でも初公開の作品も多い。豊かな色彩と深遠な人間描写が特徴的な50点の作品を並べる。

香港のローカルアーティストも参加した企画も

　香港とイタリアのフィレンツェにあるウフィツィ美術館の関係は、2020年に同館で実施した「ボッティチェリ展」が最初の試みだった。近代ヨーロッパでも歴史ある美術館として知られる同館とのタッグは在香港イタリア総領事館の協力の下、進められたという。

　ルネッサンス期のベネチアは、貿易と文化の重要な拠点だった。この水の都の豊かな環境と独特の文化的雰囲気が、豊かな色使いと人間の感情の深遠な描写で有名なベネチア派の画家たちを育んだといわれる。ティツィアーノは当時最も重要な画家の一人で、ベネチアのみならずヨーロッパ中で高い人気を誇っていたが、「愛、欲望、権力、精神性など、人間の感情の最も激しい面を並外れた方法で表現することに秀でていた」とされ、その作品は同時代の画家たちの手本となっただけでなく、その後の数世紀にもわたってヨーロッパ美術に多大な影響を与えたという。

　同展では、ティツィアーノだけでなく、ジョルジョーネ、ティントレット、パオロ・ベロネーゼなど、同時代のベネチアの画家たちの作品も並んだ。作品の内容は、肖像画や聖書・神話を題材にした作品などで、ベネチア派の芸術世界に浸ることができるという。ティツィアーノの代表作品で今回の展示のメインビジュアルともなっている「フローラ（Flora）」は、「ローマ神話の春と花の女神を描いた」といわれる。「キューピッド、犬、ウズラを伴うビーナス（Venus and Cupid with a Dog and a Partridge）」、「ビンチェンツォ・モスティの肖像（Portrait of Tommaso Mosti）」、ティツィアーノ自身も作品内に描かれている「慈悲の聖母（Madonna of Mercy）」、ジョルジョーネの「モーゼの火の試練（Moses Undergoing Trial by Fire）」、ティントレットの「ビーナス、バルカン、キューピッド（Venus, Cupid and Vulcan）」、ベロネーゼの「キリストの洗礼（Baptism of Christ）」などを目玉作品として展示する。

　さらに同館は、地元のアーティスト、レオン・チー・ウォー（梁志和）さんとチャン・クワンロク（陳鈞樂）さんを招き、ベネチア派絵画からインスピレーションを得た作品を制作し、21世紀の香港人アーティストのユニークな視点を通して、16世紀イタリア・ルネッサンスの巨匠たちとの世紀を超えた芸術的対話を実現させたという。

　レオンさんが制作したサイトスペシフィック・アート・インスタレーション「Tears of Tempo（テンポの涙）」では、鑑賞者が時間の痕跡を探ることができるようにした。レオンさんが収集したのは、19世紀から20世紀にかけてイタリアのさまざまな家庭や場所で使われていたビンテージのベネチアンガラスのランプ。ガラスに反射する光のゆらぎに、今年9月にアーティスト自身がベニスで録音したムラーノ島の波打ち際のサウンドトラックを合わせ、「時間と地理を超えた出合い」を表現している。

　ベネチア絵画における「神と人間の融合」にインスパイアされたチャンさんは、伝統的な墨の技法を用いて、太陽、月、星、山、川、木、岩などの自然の要素を擬人化し、生命力を吹き込んだ。感情や経験を描くことで、自然との深いつながりを築き、人間の感覚に近づけることを目指している。チャンさんの墨アート・インスタレーション「自然とのつながり」の13枚の作品を通して、鑑賞者が、「過去と現在の芸術的感情に浸りながら、内在する深みと意味を解き明かしてもらいたい」という。

　開館時間は10時～18時（土曜・日曜・祝日は19時まで、大みそかは17時まで）。木曜休館（祝日の場合は開館）。入場料は30香港ドル（学生・障がいのある人・60歳以上は15香港ドル）ほか。来年2月28日まで。