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香港人の食のバイブル「飲食男女」が突然の廃刊 今後はウェブで継続

最終号ではこれまでの表紙を一覧にしたページも掲載

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 香港人の飲食文化を支えてきた雑誌「飲食男女(Eat And Travel)」が8月3日号で紙媒体としての最後の発行(1430号)となった。今後はウェブ媒体とスマートフォン・アプリを通して記事の掲載を続けていく。香港の中国返還直後に発行された約20年にわたる雑誌が幕を閉じることになった。

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 民主派寄りの新聞「蘋果日報(Apple Daily)」などを発行する「壹傳媒(Next Digital)」が発行している食と旅行をメインに扱う同誌。7月17日、壹傳媒は傘下の雑誌「壹週刊 (香港)」を「W Bros.Investments」に5億香港ドルで売却することを発表したが、飲食男女は売却リストには載っておらず壹傳媒が継続して発行をするものと見られていた。

 壹傳媒は7月27日、8月3日号で紙による発行を停止し、ウェブサイトとアプリを通じて事業を継続していくと突然発表。多くの香港市民に驚きを与えたほか、7月31日には壹傳媒の職員の一部が会社の入り口の前で抗議活動を行う事態にまで発展した。編集部には50人を超える職員がいるがデジタル媒体の部署を中心に異動するものと見られている。

 飲食男女は1997年7月18日、5香港ドルで創刊。当時は旅行雑誌にレストランの記事が載るパターンが多く、料理を中心に扱う媒体がなかったことを逆手に取ったアイデアだった。事実、中文タイトルでは旅行雑誌でもあることは全く分からず、英文でもEatの文字が先に来る。創刊当初から運営は厳しく3カ月後の同年10月にはいったん発行を停止。翌98年に2月に復刊した。

 2001年にも再び休刊となったが、2002年に同じ壹傳媒で発行していたゴシップ雑誌「忽然1周(Sudden Weekly)」と抱き合わせで販売(10香港ドル)。2006年からはファッション誌の「me」も加わり3紙のセット売りで販売していた。忽然1周との抱き合わせ販売は、商売上手な香港らしいアイデアで、日本ではなかなか考えられない発想といえ、事実、発行部数が2倍になった。

 2015年に忽然1周が廃刊となり、飲食男女は壹週刊の折り込みの形で20香港ドルで現在まで続けてきた。100%壹傳媒の子会社である企業「飲食男女周刊」の馬美慶(Betty・Ma)社長も「紙媒体の衰退」「紙媒体の生存空間が徐々に減っていった」と停刊の理由を述べている。

 同誌が香港市民からガイドブック「ミシュラン」よりも信頼され、過去にレストランのマーケティング担当者はまずこの媒体に取り上げてもらうことを目標にしてきた背景には、馬社長が「覆面でいろいろな店を訪ねて試食してほしい」というポリシーがあったことで、経費も会社がどんどん支払っていた。そして編集者が提案したレストランを編集会議にかけ、それで認められなければ、編集者がどれだけ力説しても掲載は見送られた。香港の食に詳しい専門家や食通のコラムニストによる執筆も大きかった。香港でこのスタイルを貫く雑誌は多いとはいえず、飲食男女を買えば深い記事を読めることが人気だった。

 同誌に12年にわたって記事を書いていた劉健威さんは「読者の習慣が変わった。すぐ食べられ、すぐに買うことができるのが重要で、文章もすぐ読めるのが好まれた」とネット社会が発達し、かつスマートフォン社会になり「すぐ」がキーワードになり、深い内容の長い文章は好まれなくなったことを嘆く。壹傳媒の創業者である黎智英(Jimmy Lai)さんは「唯一、私が創作に関わらなかった雑誌」と、あえて編集に口出しをしなかった特別な雑誌であることも吐露している。

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