香港のスタンダードチャータード銀行は8月11日、香港の富裕層の旅行に対する価値観をまとめた「Hong Kong Travel Value Report 2026」を発表した。回答者の半数近くが、現地をより深く体験する「immersive travel(没入型旅行)」を人生の目標の一つに挙げ、住宅を所有することを重視した人の約2倍となった。同行は、「旅行で得る記憶や経験を『experiential asset(体験型資産)』と位置付け、住宅などの有形資産とは異なる豊かさを重視する傾向が表れている」としている。
同調査はスタンダードチャータードがHuman8と共同で6月、30歳以上の香港在住者1058人を対象にオンラインで実施した。対象者を、流動資産20万香港ドル以上100万香港ドル未満の新興富裕層、100万香港ドル以上780万香港ドル未満の富裕層、780万香港ドル以上の高純資産層の3層に分けて調べた。回答者の60%は子どもを持つ親となっている。
人生の目標では「早期退職」が49%で最も多く、「没入型旅行」が48%、「心身の健康」が47%で続いた。一方、「住宅を購入し理想の家を持つ」は24%に留まった。レポートは、長年、住宅購入への足掛かりを得ることが香港の中間・上位中間層の代表的な目標とされてきたが、その構図が変わりつつあると指摘する。
旅行を単なる余暇ではなく「自分への投資」と考える人も55%に上り、高純資産層では72%だった。全体平均で15万3000香港ドル、高純資産層では34万5000香港ドル、月平均で約3万香港ドルにも及ぶ。全体の約3人に1人、高純資産層では66%が、旅行への年間支出が外食や娯楽、ライフスタイル関連を合わせた日常生活での支出を上回ると答えた。
同行は、キャセイパシフィック航空およびMastercardと提携し、2016年から「Standard Chartered Cathay Mastercard」を展開してきた。調査によれば、富裕層の約60%がマイルを利用して上位クラスへのアップグレードや遠方旅行を実現しており、銀行サービスとカード利用を組み合わせて効率的にマイルを獲得している。この10年間で、カード会員は累計750万枚以上の航空券をアジア・マイルで購入・交換しており、日本やタイが依然として人気の渡航先である一方、シンガポールや英国への需要も増加している。ある高額利用者は10年間で1,300万マイルを貯め、130回の旅行に交換した事例も紹介された。
旅行の中身にも変化が見られる。86%が、観光名所を巡ったり買い物を中心にしたりする旅行から、より深く意味のある体験を求める旅行へとスタイルが変わったと回答した。今後したい旅行の形では、一つの場所に長く滞在し、現地の生活に触れる「スロートラベル」が54%で最も多く、自然の中で過ごす旅行や文化に深く触れる旅行も上位に入った。7割はスポーツ大会やコンサート、展覧会など、特定の体験を目的にした旅行にも関心を示している。
旅行経験そのものを資産のように捉える意識も強い。80%が、若い頃に「もっと貯蓄すればよかった」ことより、「もっと旅行して世界を見ればよかった」ことを後悔していると回答。94%は、10年後に振り返った時、旅行で得た記憶は高級品よりも大切になっていると考えている。さらに74%は、旅行で得る成長や記憶、考え方の変化といった価値が、従来型の投資以上になる可能性があるとした。
こうした価値観は子どもへの教育にも及ぶ。親の93%が、国際的な視野や適応力は学業成績だけよりも子どもの将来に重要と回答し、92%が海外旅行を子どもへの教育投資の中で最も意味と価値のあるものと評価した。さらに92%が、子どもとの旅行や共有した記憶を住宅と同じくらい長く残る資産と考えている。旅行を消費にとどまらず、自分自身や次世代に残る「体験型資産」として捉える意識が、香港の富裕層の間で広がっていることが調査から浮かび上がった。